実寸感覚

「実寸」とは、実物の寸法という意味で使う。私は、永く印刷物のデザインをしているので、この「実寸」は常に頭の片隅にある基準だ。できる限り実物に近くイメージして、見栄えや見易さ、使いやすさを事前にシミュレーションしておく。今でいうところの「バックキャスティング」思考だ。印刷して大量生産した後で「しまった!」となっては大変だからだ。

 この考え方は、コンピュータで制作しデザインがリアルにデータ化される現在でも基本的には変わっていない。それは印刷物だけでなく、WEBや映像などデバイスを通じた場合でも同じだと思う。つまり、制作物が見られたり、使われたりする実際の状況をどれだけイメージして制作するのかということだ。

 機会があって普段見ることができない「実寸」を「感じる」ことができた。岐阜の「かかみがはら航空宇宙博物館」で十機以上も飛行機の実機(使われていた本物の飛行機)を見て回ったのだ。その時思ったことは「戦闘機は思った以上に大きい」ということだった。そもそも戦闘機の「実寸」を普段感じることはできないわけだが。

 一人もしくは二人のパイロットを音速で飛ばすために、その飛行機は大きなジェットエンジンとそれらを包む流線型の機体を持っている。さらに揚力やコントロールを得るための翼を広げている。展示されているからエンジン音やジェット燃料の匂いがないだけだ。人が一人空を飛ぶために、人の大きさの何倍ものサイズの機械やシステムが必要になる。やはり「空を飛ぶ」ということは特別なことなのだ。

 「実寸」を意識するということは「リアルな感覚」を意識すると言い換えても良いと思う。世の中にある多くの情報と併せて、自分の視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚を総動員したら、新たなアイデアがみつかるかもしれない。「肌感覚」「実寸感覚」「距離感」「直感」。人の持つセンサーを有効に使おう!

鈴木久直

Related Posts

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です